大山詣り
相模のほぼ中央に、相模平野を前に控え、丹沢山塊を後に随えてそびえ立つ大山(おおやま)は、その形のよい山の姿が江戸やその近郊から望見されて、人々はこの山を霊山としてあがめていました。そして雨降山(あふりさん)という別名を持っていて、雨乞の利益(りやく)があるとされているためか、大山に登山してお参りをしてくる大山講という信仰団体が、南関東一円に結成されました。江戸の市中にも沢山の大山講ができて、落語にまで「大山詣り」という題で、そのエピソードが取り入れられています。
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品川宿でも、各町内ごとに大山講があり、これが現代に至るまで継承されています。
現在旧品川宿の地域にある大山講を列挙します。
北新御神酒講
旧歩行新宿の区域(現在のおおよそ北品川一丁目の区域)
北二大山講
旧北馬場・本宿・北浜の区域(現在のおおよそ北品川二丁目の区域)
宮本講
旧南品川一町目・二町目・真浦・後地町の地域(現在のおおよそ南品川一丁目の区域)
明睦講
旧南番場・奥馬場・広町の区城(現在のおおよそ南品川四丁目・五丁目の区域)
品川大太刀講
旧南品川三町目・四町目の区域(現在のおおよそ南品川二丁目の区域)
また、大山へ出発する十日くらい前から、町内の目抜きの場所の店を借りて大山講の神酒所(みきしょ)をつくり、そこに神号を墨書した掛軸を掛け、その前にミキワクと呼ばれる木造の厨子(ずし)を一対(いっつい)飾り、そこに神酒と供物(くもつ)・真榊(まさかき)を供えました。この神酒所の入口には、両側に笹竹を立て、その枝にマネギ(手拭の約半分の大きさの布で、講の名前や講元・世話人などの名前を染めぬいたもの)を何枚もさげ、そのまわりに酸漿提灯を何本も飾りました。この神酒所は大山に行った講員が帰ってくるまで設けられ、町内の人たちはそこにお詣りにいきました。
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江戸時代、大山詣りはとても人気がありました。
当時は、富士詣りも人気がありましたが、江戸から富士へ行くには少なくとも7日を要し、箱根の関所を通る手形が必要な大旅行でありました。一方、大山詣りは、関所も通らず、帰りがけに江ノ島や金沢八景を経由しても3日か4日程度といった観光を兼ねた小旅行でした。
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参考